ソーシャルワーカーの就職・転職の話③事業所ができる採用活動

回と、ソーシャルワーカー自身ができる転職活動についてお話してきました。今回は、採用する事業所側のお話です。

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支援者採用の難しさ

福祉業界は人材不足だとよく耳にします。
全国社会福祉協議会に設置されている中央福祉人材センターの「福祉人材センター・バンク職業紹介実績報告 (令和4年3月)」によると、 有効求人倍率4.15と、ハローワークの全職業平均有効求人倍率の1.39(厚生労働省「一般職業紹介状況」より)と比較してかなり高い数値となっています。

事業所側のニーズと比べて、働き手が少ない状況です。(詳しく数値等知りたい方はこちらのサイトを見てみてください)

支援者がいないとそもそも福祉事業は成り立ちませんので、採用はとても重要な経営課題です。なかなか難しい環境の中、事業所の採用のためにはどんな準備、採用活動をしたらいいのでしょうか?

採用活動の前に必要なこと

そもそも「採用」とは何を指すでしょうか。

私の解釈では、何かしらのミッション(社会の役に立つような目標)を達成するために、ビジョン(こういう方向に向かいたい!)を持ち、それに沿った人たちが集まって一緒に働いている団体、です。進みたい方向が決まっていて、そこにどう歩みたいかも計画を立てながら進んでいるので、その過程で必要な人やモノを供給しているのです。人を採用したり、設備やモノを買ったり。

ここで人を供給したいときに行うのが「採用活動」で、求職者側からすると「就職・転職活動」です。その方法としては、①の記事でも書いたようにいくつかの方法があります。

①人や学校からの紹介(リファラル)
②職能団体などの求人情報
③「ハローワーク」や「福祉のお仕事」
④求人媒体/人材紹介
⑤各施設・病院等のホームページ

①②③⑤は、お金がかからない方法です。一方、手間暇がかかったり、なかなか求める人材に出会えなかったりします。④はお金がかかる方法ですが、広く求人広告を出したり、合う人材を探してもらえたりします。特に採用競争率の高いポジション(例えば児童分野であれば児童発達支援管理責任者など)を採用したい場合や、急いで採用したい場合に活用するといいでしょう。

採用活動の際に必ず準備するのが「求人票」です。給与や所在地、条件などを候補者の方に伝えるために必要なものですが、求人票や事業所のホームページなどの「自己紹介」を作るために必要なのが、自分たちの事業所が「どこへ向かい、何をしているのか、何をしていきたいのか」整理しておくことです。

そうすることで、求職者は、自分が考える進みたい方向と事業所の進んでいく方向が一致しているか否か、自分がもっているスキルや経験が活かせそうか否か、判断し、応募するかどうか決めることができます。

給与などの条件面だけが載っている求人票は、どんなところなのか全くわからないので、なかなか応募が来ませんし、採用したい人と上手く出会えなくなってしまいます。

「こんな人が欲しいんです」というニーズだけが載っている求人票も候補者の心に伝わりません。就職と結婚は同じ、という例えで考えると、候補者が作成する履歴書と同じく求人票もまた「ラブレター」です。

面談ができて、連携ができて、㈯出勤もできる人~!という都合のいい声掛けには反応する人は少ないはず。ご飯作ってくれて、洗濯してくれて、働いてくれるパートナーが欲しいです~!と言っているようなものです(苦笑)。

まずは、自分たちがどこへ向かい、何がしたいのかを示した上で、そのために用意できる環境を提示します(給与や福利厚生、働く環境などの待遇)。ポイントは、きちんと自分のこと(事業所のこと)を紹介した上で、求めることも記載し、お互いにメリットがある形を真摯に作ろうとしている姿勢を見せることです。雰囲気が分かるような写真を載せたり、日々の様子が伝わるような記述もいいと思います。

これらも全て「どこへ向かい、何をしているのか、何をしていきたいのか」を元に考えることで、文章中に使う単語1つ1つにその事業所の雰囲気や意図が表現でき、伝わる求人表になります。心に響くような求人票だったら、あぁ応募してみようかな、働いてみたいな、と思いますよね。

書類や面接では何を見る?


そこが伝わったら、次が面接のことが多いと思います。
採用側も、求職者も、お互いがお互いを知り、判断できる場です。

採用側は、まさに「一緒に働きたいと思えるか」「今回採用したい人物像とマッチするかな?」というのがポイントです。向かいたい方向ややっていくことに対して、考え方や持っている経験やスキルがマッチするかどうか。

そのためには、もし事前に履歴書や職務経歴書が送られてきているのであれば面接の前に確認して質問したいことなどを整理しておくと実りある面接の場になると思います。

面接の際、注意しなければならないのが、どうしても無意識の「バイアス」がかかってしまうこと。

例えば新規開設で3人の支援者を採用する場合。すごくいいな…!と個人的に思う人が3人きたとして、その全員が全くの支援未経験であればどうでしょうか。育成の余力はありますか。今必要な人材はどのような方ですか。

もしくは、そこそこ安定して経営できている事業所に1人採用するとしましょう。ものすごい経験とスキルのある候補者の方が来ました。とても優秀そうですが、なんだか雰囲気が今いるメンバーで考えると違和感を感じます。採用しない方がいい人は、どんな人でしょうか。

…と例を書きましたが、「正解」があるわけではありません。このように迷ったときにも立ち戻って考える軸となるのが、やはり事業所が「どこへ向かい、何をしているのか、何をしていきたいのか」です。

既存の事業所であれば、事業所のHPにはどのような言葉でそれが語られているでしょうか。また、既存の支援者に浸透してますか。

正直、個々のビジョンが定まっていない、言葉はあるけど文化として根付いているわけではない、そんな事業所も多いかもしれません。そこがあやふやだったり、曖昧だったり、上っ面ばかりだったりするとせっかく採用できても、離職に繋がります。

また、現状マイナスな面ー大変なこと、我慢が必要なこと、求めたいことなど、一見ネガティブ要素となるようなことも懸念点として面接の中で誠意をもって説明することも大切です。

できるだけ入社前と入った後の悪いギャップが少なくなるよう、工夫できるのも採用時です。

採用は、ただ支援にあたる人員をみつけて入職してもらう、というだけの活動ではありません。支援という旅を共にする仲間探しです。人材不足の中、そんなこと言ってられない、という事業所もあるでしょう。ただ、最初にこれをやることでそのスパイラルを抜け出せる経営ができるともいえると思います。

採用を大切に考えることで、支援を豊かにしていくことができます。人材不足で難しい状況であるからこそ、真摯に取り組み、自分たちが何をしているのか言葉にすることから始めてみてくださいね。素敵な支援者さんとの出会いがありますように!