バーンアウト(燃え尽き症候群)は、対人支援している人なら誰でも、程度の差こそあれ心当たりのある方は多いのではないでしょうか?
近年は、多様で複雑なニーズを持つクライアントが増えて、制度や組織とクライアントとの間で活動するソーシャルワーカーにとって負担が大きくなり、燃え尽き症候群(バーンアウト)にいたるケースも増えています(若宮2016)。
支援者は仕事柄、人に「ゆっくり休んでくださいね」と言うことが多いけれど、心身共に疲れると、なかなか気が休まらないことも多く、身体に力も入りがちです。私も、入職して3年くらいの時に「なんだか・・・感情がうまく動きにくい・・・」と感じたことがありました。
この記事では、バーンアウトの仕組みや、自分でどんな工夫や対処ができるのかをお伝えしていきます。
バーンアウトとは?
バーンアウトとは、
「自分が最善だと信じて打ち込んできた仕事、生き方、人間関係などが全く期待はずれに終わったことでもたらされる疲弊や欲求不満の状態(Frudenberger,1974)」
「長期間に渡り援助活動を行う過程で、精神活動力を過度に要求されたために、起こる心身の消耗と枯渇を主とする症候群(maslack,1976)」
だと言われています。
バーンアウトの主な症状は以下のようなものです
- 情緒的消耗感
└仕事で感情的に消耗している状態
2.脱人格化
└他者へのサポーティブな感情が消失し、無関心な態度になること、離人化
3. 個人的達成感の後退
└やってもやってもできないと感じること
また、こうした症状から、自己肯定感が下がり、仕事への意欲が減り、仕事の効率が下がるなどの状況になりやすいです。朝、仕事に行くのが嫌だなぁ…とか、イライラしてしまう、気持ちのコントロールができない、ストレスで食べ過ぎたり食べられなかったり…こんな影響が出ることもあります。
なりやすい人の特徴
バーンアウトは、対人援助職なら誰でもなってしまう可能性があるものですが。その中でも、まじめで、希望に燃えて意欲的な人に生じやすいと言われています。
本人主体の支援がしたいのにできなかった、クライエントとの関係性に懸念がある、希望が叶わなかった、組織の仕組みで思うように進められなかった、ソーシャルワーカーとしての職場の立ち位置が曖昧…。
こういった板挟みになることの多さや、ソーシャルワークの理想の高さ(でも追求したいですよね)、組織や制度の在り方などの環境要因も、バーンアウトを生じやすくさせてしまう要因です。
バーンアウトへ予防と対処
バーンアウトしてしまう要因は、ソーシャルワーカー個人だけではなく、労働環境や業務の仕組み、職場での立ち位置など様々なものがあります。
ここでは、ソーシャルワーカー自身が自分で工夫できることを中心にご紹介していきます。
●セルフケアスキルを身に付ける
バーンアウトは、働く中で長期に渡ってストレスを感じ続ける中で徐々に心身が消耗していくものです。対処としては、まず自分が感じているストレスへの「気づく」こと、そのためにメンタルヘルスに関する知識や対処スキルを身に付けることが有効です。
日頃から、生活リズムを整える、食事に気を付けたり適切な運動を取り入れるなど、日常生活を整えることも大切です。
例えば、簡単なカレンダーや日記に、今日の体調や気になっていることなどを書いておくと、モニタリングになり、自分の調子や波を把握しやすくなります。
夜や休日は、十分に休むことも大切です。
仕事の日の夜、ゆっくりお風呂につかったり、好きな音楽を聴く、ストレッチや瞑想をするなど、神経をリラックスさせて心身の力を抜ける時間を作ってみてください。
セルフケアというと、このようなリラックスのイメージがわきやすいですが、アクティブに動き気分をリフレッシュさせることと組み合わせると、より有効なセルフケアになります。
●他者に相談する
バーンアウトになりやすい状況として、「孤立している」状態があります。忙しく上司や同僚に相談しにくかったり、真面目で頑張り屋な人ほど自分の中で留めたりしやすいです。
普段から、相談したり意見を交換できる人を持っておきましょう。職場の人、職場外の繋がり、家族、友人、必要があれば外部のカウンセラーを頼ることもできます。
そして、相談先は複数思い浮かぶ状態にできると、いざという時に悩みに合わせて声掛けができるため、頼りやすくなります。
●専門職としての技能のアップ
バーンアウト予防に有効なことの1つが、「ソーシャルワーカーとしての職業的アイデンティティを確立させていくこと」です。
そもそも、ソーシャルワーカーは職業的アイデンティティが多職種に比べて弱く、働きながら職務体験と概念を結び付けたり、自分なりに解釈したりしていきながら、だんだんと自分の中に職業的アイデンティティとして根付いてくると言われています(大谷,2021)。
そのために、自分の中でソーシャルワークの学びを深めたり、必要に応じてスーパービジョンを受けることで、サポートを得ながら成長していく機会を持ちましょう。
そうすることで、ストレスに対する緩衝材となり、ストレス耐性が上がります。
●居場所を確保する
仕事だけではなく、ボランティアや組織外のつながり、趣味の集まりなど、サードプレイスになるような場所を持っておくことも有効です。日々の中で、どこか1つで上手くいかなくても、気持ちの持って行き所があったり、所属感、存在意義を感じられる場所があると心の支えになります。
バーンアウトしてしまったら
バーンアウトしてしまっているな、と気づいたら、意識的により多くの休む時間をとりましょう。これ以上消耗してしまわないように、自分が取り組める仕事の量やレベルを調節します。
仕事の合間にも、お茶やトイレなど細かな休憩を意識してとり、小刻みに気を抜くことを意識しましょう。
人にも頼りましょう。場合によっては、職場で業務調整をしたり、お休みをとる(有休や休職など)ことも必要です。心身の体調によっては医療機関の受診も必要な場合があります。
この記事では、個人でできる対処を中心にご紹介しましたが、組織など環境の問題や、育児や介護と仕事の両立など、プライベートも合わせて検討する必要がある場合もあります。
長期間にわたって頑張ったきた結果でもあるので、疲れてしまうことも自分に許して、自分自身を労わってくださいね。
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この記事は、根拠を大切にしつつ、実体験からの記述も含みます。学術的根拠を大切にされたい方は以下をご参照ください。
〔参考にした文献〕
・若宮 邦彦(2016) ソーシャルワーク領域におけるスーパービジョンの理論的検証 南九州大学人間発達研究 第6巻
・久保 真人(2017) バーンアウト (燃え尽き症候群) ヒューマンサービス職のストレス 日本労働研究雑誌 No. 558
・清水隆則・田辺毅彦・西尾祐吾編(2002)『ソーシャルワーカーにおけるバーンアウト―その実態と対応策』中央法規
・大谷京子(2021)専門職アイデンティティ概念の整理 -ソーシャルワーカーの専門職アイデンティティ形成に向けて- 日本福祉大学社会福祉論集 (143・144)
・瀬藤乃理子(2022)バーンアウトや共感疲労を防ぐ組織の工夫 こころの科学N0.222