#09 森 和美さん フリーランスソーシャルワーカー

*普段のインタビューは、私、森がみなさんにお話を聞かせていただいていますが、今回は私がインタビューしていただいた記事でご紹介します。

人生は自分でコーディネートできる。「ソーシャルワーク」を取り入れて自分らしく生きる人を増やしたい

大学で心理学を学び、社会人経験を経て精神保健福祉士の資格を取得。2021年1月に独立し、現在はフリーランスのソーシャルワーカーとして働く森和美さん。

これまでに、障害者の就労支援や上場企業で採用を担当して来られました。プライベートでは5歳の男の子を育てる母親でもある森さんが、独立するまでに組織の中で感じて感じてきたことやソーシャルワーカーとして実現したいことを伺いました。

箱庭療法に出会い、大学は心理学科へ

高校3年生のときに、友人について行った大学のオープンキャンパスで心理学科を見学しました。

そこで見せてもらったのが、「箱庭療法」。子どもが箱の中に入った玩具や砂を使って自由に遊ぶ様子をセラピストが観察して行う心理療法です。当時はそれが何なのかも分かっていませんでしたが、「直接話を聞く」以外のアプローチで人をより良い方向に導く方法があるんだと思いました。

それがきっかけで心理学に興味を持ち、中でも関心のあった医療や臨床心理について学べる大学へ進学しました。大学卒業後は、すぐに専門職として働く自信が持てず、「とにかく実家に近いところ」と思って就職したのが、福岡にある皮膚科と整形外科のクリニック。事務と看護助手として3年3ヶ月間働きました。

「消したいなら切らなきゃいいのに」。社会の冷たい態度を感じた

患者さんの対応は楽しかったのですが、同僚の価値観には違和感を持つことがありました。「小さいほくろを取りたい」「目の形が気になる」など心の問題も含む相談に対して、一緒に働いていた人の反応は冷たいものでした。

あるとき、お母さんに連れられて女の子が来院したことがありました。「リストカットの跡を消したい」という相談内容で、腕には過去の傷が残っているところもあれば生傷もありました。

しんどいだろうなと思いながら受付を終えると、同僚は「消したいんだったら、切らなければいいのにね。なんで切るんだろうね?」と言ったんです。衝撃でしたね。

同僚自身がストレスフルな状態だったのかもしれませんが、苦しんでいる患者さんに対して出た言葉がそれだったんです。精神疾患に悩んでいる人に対する社会の態度に初めて出会いました。

「生きづらさを抱えている人たちが生きやすくなるような仕事をしないといけない」と強く思ったことを覚えています。

相手と横並びで生き方を考えたい。ソーシャルワークの道へ

就職して3年目に大学時代のゼミの先生に会う機会があり、クリニックでの経験やモヤモヤしていることを話しました。そのときに精神保健福祉士(以下、MHSW:Mental Health Social Worker)の資格を取ることを勧めてくれました。

心理士は患者さんと向き合って1対1で治療するのに対し、MHSWは患者さんと横並びで一緒に考えていくようなイメージがありました。私にはそちらの方が合っていると思い、MHSWの資格を取ろうと決めてクリニックを退職しました。

日中はカフェでアルバイトをして、夕方からは専門学校に通って勉強しました。実習を終えてからは、経験を積むためにも実習先の法人が運営している就労継続支援B型(以下、就労B)でアルバイトをさせてもらうことに。試験に合格してMHSWとなってからもその施設で働くことになり、約8年間障害者支援に携わりました。

企業への就労に不安があったり困難さがある障害者の方に対して、軽作業や就労訓練などのサポートをすることが主な仕事で、ときにはハローワークに同行することもありました。利用者さんの所得向上のために、工賃向上の活動にも力を入れていました。

アットホームな雰囲気の職場でやりがいもあったのでそのまま働くつもりでしたが、夫の転勤があって福岡から東京に引っ越すことになり、転職を考えました。

転職をきっかけに、見上げる視点から俯瞰する視点へ

東京では、教育福祉系企業の株式会社LITALICOで働くことになりました。もともとLITALICOで働いている知り合いがいて、中目黒にある本社に遊びに行ったのが入社のきっかけです。

そこで採用担当の方と話す機会があり、「障害者雇用と福祉専門職の採用担当として働きませんか?」と提案してもらったんです。障害者雇用に関してはそれまで支援側として関わっていたので、活かせることがあるかもしれないと思って入社を決めました。

それまで働いていた就労Bでは、生活保護を受けている利用者さんも多く、日々の支援は地域の中での地道な活動でした。それが、転職してからはいきなり中目黒のオフィスで書類選考をする立場になったんです。

たくさんの応募の中から、自社へ合う合わないを考え、人を選ばなければならないのが採用担当の仕事。社会を見る角度が変わりました。

それまでは生きづらさを抱えている人の側から社会を見上げるように仕事をしていたことが多かったのですが、採用の立場になって、企業から社会を俯瞰して見るようになりました。

“普通”の人も、社会で生きづらさを感じている

採用部にいると、日々多くの応募書類に目を通します。福祉関係の会社だったこともあり、志望理由の多くは「自分自身が生きづらさや社会に対する疑問を感じ、福祉に興味を思って応募した」という内容でした。それを見たときに、就労Bで出会った利用者さんが言っていた「生きづらさ」と大きな違いがないことに気づきました。

私自身、就労Bの利用者さんに大して「障害があるからこその生きづらさ」の支援をしていたけれど、マイノリティとされる以外の人たちもしんどさを抱えていたんです。

社会がこれだけ苦しい状態なのに、「障害者雇用を進めるために、会社に受け入れてください」と言うだけでは無理があるなと思いました。社会に余裕をつくることが大切だなと思ったんです。

障害の有無に関係なく、より良く生きるサポートがしたい

就労Bでの利用者支援と一般企業での採用の両方を経験することで、「ソーシャルワーカーとして、病気や障害に関係なく、生きづらいと感じている人がより良く生きられるようなサポートがしたい」という想いが強くなりました。

生きていく中で嫌なことや苦しいことは、誰にでも起こるものです。私がやりたかったのは、病気になってからのサポートではなく、そうなる前に生きづらさ自体を軽くするようなサポートでした。

企業への転職も考えましたが、独立した方が活動の幅が広がるのではないかと思い、2020年夏にフリーランスになることを決めました。LITALICOはその年の12月末で退職し、2021年1月からフリーランスソーシャルワーカーとしての活動をはじめて今に至ります。

メンタル疾患予防にもつながる「キャリア支援」

最初は明確にやることを決めていたわけではなく、「ご縁があったものは全部やってみよう」という気持ちで複数の仕事を受けました。

これまでやってきたのは主に3つで、オンラインカウンセリングとソーシャルワーカーに向けたキャリア研修の講師、障害者雇用に関する記事の執筆です。

1番やりたいのは、キャリア支援を通してその人らしい人生をつくることであり、それがメンタル疾患予防になることです。相談を受けるときに意識しているのは、その人が自分を大切に思えるようにサポートすること。

「こうしないといけない」「これはできない」などと思い込んでいる方がいますが、その思考には社会の価値観が影響していることもあります。その人自身が本当は何をやりたいのかをひもとくことを心がけています。

今後は、似た考えを持ったソーシャルワーカーの人たちと一緒にコミュニティをつくってみたいです。まだ構想段階ではありますが、キャリアに関して学び合ったり相談し合えたりする繋がりをつくり、お互いのためになるような場にしたいです。

ソーシャルワークを、もっと身近なものに

新卒でクリニックで働いていたときに、よく開いていた本があるんです。20代の人に向けたライフスタイル本で、それを見るのが好きだったし、心の癒しと支えにもなっていました。

生活リズムの整え方や休み方、人とのコミュニケーションの仕方などが紹介されていて、今思うと、それはソーシャルワーク(就労支援)の1つだったと気づきます。誰に対しても必要なことだけど、それを学ぶ場はなかなかない。

どんな手段かはわかりませんが、ソーシャルワークがもっとフランクで身近なものになるように活動していきたいと思っています。

私はそれを「ポップソーシャルワーク」と言っているのですが、自分の生活をより良くしていきたいなと思ったときに、自分の人生をコーディネートしていく選択肢の1つとして「ソーシャルワークの考え方に頼ろうかな」と思ってもらえたら嬉しいです。

そうしたことを、一般の人へ向けて情報発信ができるとソーシャルアクションに繋がると思っています。2年目はそのスタートを切りたいです。
(written by naoko tateishi

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就労支援をしているときに、法人の同期と始めた「ピンクファイルの会」。自分たちも個別支援計画を立ててみようと始めたこの会が、自分自身も生活者の1人として生き方を考えてみようと発信する今につながっています。

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